
こんにちは!今回は麗音が、三重県御浜町まで、お酢を製造していますMIKURAさんに取材させていただきました。
MIKURAさんで醸造される御蔵酢(みくらす)の製法やこだわり、MIKURAの皆さまからお聞きした経営に関することや思いについて書かせていただきたいと思います!
御蔵酢の味に感動!
調味料の「さしすせそ」を知っていますか?
砂糖、塩、酢、醤油(せうゆ)、味噌。それぞれから一文字取って語呂合わせしたもので、昔から日本では調理の基本として欠かせないものとされています。
お酢はその一つであり、私たちにとって馴染み深いものであるかと思います。
スーパーで売っていて普段家庭で使っているようなお酢を舐めてみると、舌や唇がぴりぴりと痛みを感じるほどの酸味で、つい口をすぼめて顔をしかめてしまいます。料理には使われていても、そのものだけで味わうのは少し難しいものです。この強い刺激のために、お酢自体はあまり好きじゃないと思う方もいることでしょう。
酸っぱいだけのお酢に違いなんてあるのか…私は今回までそう考えていました。
しかし、MIKURAさんの蔵で造られている御蔵酢を味見させていただいたところ、舐めた瞬間に「えっ、思っていたのと違う」と声を出してしまったのでした。
まず、口に入れたらふわっと大きく膨らむお酢の香りは、決して嫌なものではなかったのです。力強くも柔らかい広がり方に華やかさも感じました。
強い酸味はもちろんあるのですが、角がなく、まろやかな口当たりで、飲めるのではないかと思えてしまうほどです。
御蔵酢ができるまで
この風味の違いは、製法におけるこだわりによって生み出されています。
お酢の造り方を知らない方も多いかと思いますので、ここで一般的なお酢の製法と供に御蔵酢の特徴や魅力を紹介していきましょう。
お酢造りの工程と原料
お酢造りの工程は、①お酒を造る ②お酢に変える ③熟成 ④仕上げ の大きく4段階に分けられます。
実はお酢ってお酒からできているんですね。実は初めて知りました。
御蔵酢の原料は、三重県多気町産の玄米と、多気町で製造された酒粕を仕入れて使用しており、主に玄米酢と酒粕酢を製造しています。
今回は玄米酢の製法を取り上げ、少し詳しくお話します。
お酒を造る
まずお米のデンプンを糖にする必要があるのですが、麹がその役割を果たします。その麹もMIKURAさんは自らで生産しています。蒸した米に種麹(たねこうじ、麹のもとになる)を散布し、麹室(こうじむろ)という特別な部屋で麹菌を繁殖させます。写真はその麹室です。湿度も温度も高く、まるでここだけ夏のようです。
そうしてできた米麹に、水と酵母を加えてアルコール発酵をさせるのですが、ここでできるのはまだお酒を造るための材料です。
そこにさらに蒸した米と水を足して発酵をさせると、玄米のデンプンが糖へ、糖がアルコールへと変化します。こうしてできるのが「もろみ」と呼ばれるもので、もろみをろ過することによってお酒が完成します。MIKURAではここでできるお酒は、法律で販売することが禁止されています。
麹を造るのに4日、二段階のアルコール発酵で合計3週間という時間を費やします。
お酢に変え、熟成、仕上げ
次に酢酸発酵です。先ほど造ったお酒のアルコール分を、お酢の主成分である酢酸に変える段階です。ここで材料を木桶に移します。種酢(たねず、お酢のもと)と水を入れ、酢酸菌の力で発酵させます。
MIKURAさんでは現在4つの木桶を使用して製造しています。木もやはり自然のものなので、湿度など、菌にとって住み心地のよい環境になるようです。最近新たに木桶を譲っていただいたそうで、これからはたくさんの菌に活躍してもらえそうですよ!
桶の中の写真です。表面に膜を張っているのが酢酸菌で、外気の酸素を使って、アルコールを酢酸に変えていきます。酢酸はアルコールよりも重いので沈んでいき、アルコールは表面へと上っていくため、人為的にかき混ぜなくても自然に対流が起こって酢酸菌は常に酸素とアルコールと触れ合うことができるという仕組みになっています。この造り方を静置発酵製法といいます。
一般的なお酢の製造では、ここで人がかき混ぜたりなどして、完成を早め生産量を増やすそうです。
桶に手をかざすと、ほんのり温かさがあります。酢酸菌が働いている証拠です。菌も生き物であるため、元気な時とそうでないときがあるそうで、元気がないときは温度が下がってしまいます。こういう時はストーブで優しく温めて応援します。
どうやら従業員の気持ちまで伝わってしまうようで、嫌な気持ちで作業をすると、うまくいかなくなってしまうそうです。皆さんもだんだん菌のことが愛おしく感じられてくるはず…。
酢酸発酵、貯蔵、熟成でおよそ12週間、その後瓶詰めして順次出荷となります。
これらの作業では温度管理がとても大切なうえ、生き物を相手にするので非常に繊細なものとなっています。
こうして手間をかけ、気持ちをこめて造られるのが、御蔵酢というわけです。
実は後発の会社
伝統的な製法でお酢を造っているMIKURAさんですが、2008年設立。現在のMIKURAの体制になったのは2016年と、実は後発の会社なのです。
代表取締役である伊藤さんをはじめ、多くのスタッフが異業種から転向してきた人ばかり。主にお酢の製造を行っている福井さんでも、お酢造りはこの会社に入ってからが初めてだといいます。
伊藤さんが社長になるまでに、5回も社長が変わっています。御蔵酢の知名度の無さと、蔵の場所が人々の生活圏から遠いという問題を抱え、皆会社を売ってしまったのでした。
なんとか知名度を上げ、お酢を売らないと、というのが社長としての伊藤さんが常に感じている率直な気持ちです。
後発の強み
そんな困難を抱えていたMIKURAさんですが、家族がやっていたとか、伝統ある大きな会社を受け継いだから、などというしがらみがないからこそできることがあると仰います。
田舎のお酢屋さんというのは、大きな瓶で売るのが当たり前だったそうですが、今時大きな瓶を買うような人は都会の方にはいませんし、持ち運びも大変です。
問題となっている知名度と動線と解決するため、伊藤さんは御蔵酢を、ギフト用として売ることを狙いました。
せっかく新しい会社なんだから自由にやっちゃおう、会社のロゴや使われるデザインは今までお酢のイメージとして無かった現代的なものにして、瓶は小さいものをメインにして売り出すという手段を取りました。
またお酢の造り方は、職人や近くの同業者に教えてもらっています。昔から造り続けているわけではないので、守るべきプライドというものがないことが都合よく、わからないことは先輩たちに素直に尋ねることができます。
さらには、業務委託が可能なMIKURAさんでは、他社から頼まれてみかんやワインからお酢を造ることに挑戦しています。とても難しいそうで、試行錯誤しているとは仰っていましたが、小さく新しい会社だからこそできることです。
そして小さい会社ということは、少数精鋭ということです。そのため、スタッフ同士の信頼関係は厚く、それぞれの役割を安心して任せることができます。
後発の会社ならではの大胆な振る舞いと柔軟性で、お酢を造り始めてたった4年だというにも関わらず、御蔵酢を認め、好んで使ってくれる人がいるというわけです。
私たちと同じ経験、近い立場から
しかし設立して間もないため、守るべき歴史というものがないこの会社。みなさんのこの熱意はどこから来るものなのでしょうか。
それは、冒頭で私が御蔵酢を味わってみて驚いたのと、全く同じように御蔵酢に驚かされたからでした。
皆さんも、驚いたことや発見は、共有したくなるはずです。
SNSで書き込んだり、おいしかったお店に友達を連れて行ったりするように、伊藤さんは御蔵酢が今まで使っていたお酢と違うことを知ってもらい、自分と同じように驚いてほしい、驚き共有したいという気持ちを根底に営業や販売を行っています。そのためMIKURAがマルシェに参加する際、来るお客さんには「買ってください」と言うのではなく、「一度味わってみて!」と味見を勧めるのです。
お酢造りが今回初めてだという福井さんも、御蔵酢を味わってお酢に味の違いがあることを知り、せっかく自分が造るのなら、よりおいしくしたいと思うようになりました。何かに夢中になって追求したくなる気持ちはきっと誰もが持っているでしょう。福井さんは研究者のような心意気を持っておいしいお酢造りに日々試行錯誤を繰り返しているのです。
取材を終えて
プライドというものは、時に大きな障害となります。
後発の会社だからこそ、プライドに邪魔されず、伝統的な方法を学ぶことにも、新たな挑戦にも柔軟に対応できることが、MIKURAさんの一番大きな強みであると言えるでしょう。
やるべきことが誰にでもある中で自由に好きなように行動することは叶いませんが、自らの立ち位置を把握して活用することと、自分の感情に素直になって行動してみることは、今を動かす鍵になるのかもしれません。
お酢を料理の中で大量に使うことは頻繁にはないかと思います。
たまに使うお酢、ちょっといいものにしてみるというのはどうでしょう。
きっと料理がもっと豊かに、もっと好きになるかもしれませんよ。
[アクセス]
株式会社MIKURA
本店/醸造所
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