
障害福祉のパイオニア「パンドラの会」
今回は、刈谷市に位置する、認定特定非営利活動法人「パンドラの会」に伺いました。
パンドラの会は、就労継続支援B型事業「おかし工房パンドラ」、就労移行支援事業・定着支援事業「S&Jパンドラ」から成り立つ障害者に対する就労支援を行う法人です。愛知県の障害福祉を発展させてきたパンドラの会。どのような思いを胸に活動し続けてきたのでしょうか。
〈備考〉
障害者に対する就労支援は、障害者総合支援法により定められている。
➀就労移行支援
一般企業等への就労を希望する人に、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練を行う。
➁就労継続支援
一般企業等への就労が困難な人に、就労の機会を提供するとともに、能力等の向上のために必要な訓練を行う。A型事業は雇用契約を結び、B型事業は雇用契約を結ばない。
➂就労定着支援
一般就労に移行した人に、就労に伴う生活面の課題に対応するための支援を行う。
参考文献:厚生労働省「障害福祉サービスについて」より
(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/service/naiyou.html)
パンドラの会のこれまで
2009年、経済産業省から「ソーシャルビジネス55選」に選出されるなど、社会的課題や地域課題の解決を目標に展開している事業所として評価されていたパンドラの会。しかし、2008年のリーマンショック以降、お菓子の売上は激減していました。新たな販売先の確保と顧客を繋ぎとどめるためにレストランをオープンするなどしてきましたが、地域に競合の事業所が増えたこともあり、利用者がサービス利用を停止することもありました。経営困難な中で職員も離職していき、理事長の坂口さんがパンドラの会に参加し始めた2013年から約4年間は厳しい状況だったと話します。レストランの閉店やおかし工房をA型事業所からB型事業所へと移行する決断をしながら、障がい者の居場所の確保のために、常に崖っぷちになりながら活動してきたそうです。
障がい者がお菓子を作る
おかし工房パンドラでは、主に焼き菓子を中心に製造販売を行っており、「一般市場でも通用する品質の商品を適正価格で提供すること」をポリシーとして掲げています。専属のパティシエの指導の下、一生懸命お菓子作りに日々励んでいます。
製造の様子を見学させてもらいました。
皆さん手際がとても良いですね!
近年、お菓子作りをしている事業所を多く見かけますが、専属のパティシエをつけている事業所は全国的にも珍しいと思います。購買行動=慈善行動ではなく、消費者が本当に美味しいと思って購入してもらうことが、利用者の働きがいにもつながることを感じました。
地域協働事業
おかし工房パンドラでは、刈谷市内の企業や小中学校との関わりがあり、食堂での販売やイベントでの出店を行っています。しかし、今年度は新型コロナウイルス感染症の流行により、出社する社員が減ったりイベントが中止したりしたことで、お菓子の売上げが激減しました。利用者は、作業の対価である工賃をもらいながら自分のペースに合わせて生活を送っていますが、仕事がなければ収入がゼロになります。「ここで働く彼らは30代だから、あと30年働く場所が必要。そのために働く場所を確保しなければならない」と前理事長の岡部さん。このような深刻な状況に陥っても、企業や市役所からの大口注文を募る働きが見られたのは、岡部さんたちの諦めない想いが利用者や地域の方に伝わったからだと思います。
また、S&Jパンドラでは、利用者への訓練だけでなく、企業を訪問し実習の受け入れをお願いするといったことも行っています。就労移行支援の現場でも新型コロナウイルス感染症の流行により、利用者は事業所に通うことができなかったり、障がい者向けの求人は0に近かったりといった深刻な状況に陥っていました。「コロナの流行により求人が減っている中で、それぞれの希望や就職への夢をどう実現していくかが課題」と理事長の坂口さんは語ります。
坂口さんとはこんなエピソードも。
坂口さん
坂口さんの所でこういった作業ができて計算ができる子いない?って企業の方からお話をいただいた時、うちの利用者をすぐに送り出すことができた。しかも、彼はチャレンジ雇用の段階で成果を出してきたんだよね。そしたら、他にもうちで働いてくれる子いないかって言われて、その時は難しかったから、働けるように指導しますって返事したね。(笑)
―さすが、フットワークが軽いことが伺えますね。(笑)
坂口さん
返事は0.5秒だからね!(笑)
利用者の地道な努力だけでなく、坂口さんの地道な行動もあって、S&Jパンドラの就労定着率99%を達成しているのでしょう!
コミュニケーション
パンドラの会では、「コミュニケーションを楽しく試すワークショップ事業」も行っています。このワークショップは、安易に批判やアドバイスされずありのままの自分を表現できる場を大切にしており、コミュニケーションにより生きづらさを抱えている人への手助けと障がいは特別なものではないことを伝えたいといった坂口さんの想いがあります。
私は、社会福祉の勉強の中で支援者としてコミュニケーションが困難な利用者との関わりはどうあるべきかといったことを考えています。支援を必要とする人たちの生きづらさで一番大きなものは、他者とのコミュニケーションが上手くとれないことです。言語理解や使い方の問題だけでなく、物事における理解や判断の困難さが加わることで、対人関係や社会性のトラブルに至ってしまうことが多くあります。
このワークショップのお話を聞いて、支援におけるコミュニケーションは障がい者だけが必要としているものではなく、社会の中でも必要とされていることに気付きました。障がい者は障害特性によってコミュニケーションの障壁が生じます。一方で、障がい者でなくても不得意な部分によってコミュニケーションが上手くいかないことがあります。皆さんもコミュニケーションで上手くいかなかった経験ありますよね。
このように考えるとコミュニケーションはお互いに当事者であり、お互いに理解し合うことが必要であるとわかります。このワークショップを参考に、現場実践でコミュニケーションのあり方をさらに追及していきたいです!
おわりに
障がい者が私たちと同じように働くためには、就労支援において福祉らしさを求めることなく、福祉を超えた発想を考えることが必要であることを改めて考えさせられました。お菓子をきっかけに障がいについて考えてもらえたら嬉しいですね。
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基本情報
〈認定特定非営利活動法人 パンドラの会〉
住所:愛知県刈谷市築地町1丁目5番地4
TEL:0566‐25‐3012